恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
それをわざわざ俺に尋ねる辺り,何か関係あるのかなと,珍しく真面目に考えてしまう。
ゆっくりと考える動作をとり,深くなっていく瞳に。
「ふふっ」
愛深は嬉しそうに笑って。
それはね?
と答え合わせをするように,大好きな歌でも口ずさむかのような声で
「それは,暁くんを好きになっちゃったから」
そう告げた。
何がそんなに嬉しいんだろう。
何かを思い浮かべながら,宙を見て。
愛深はにこにこと笑っている。
気が気じゃないのは,いつだって俺。
「も,いいよ。十分わかったから。ほら,帰ろ? 俺のせいで遅くなっちゃったから,送ってあげる」
立ち上がると,愛深はぱっと俺を見上げた。
「送るって?」
「…家の近くまで」
そんなこと,わざわざ聞く意味が分からない。
それ以外にある?
全部,言葉通りなのに。
「私の駅暁くんとこの1駅先にあるんだよ?」
「ごちゃごちゃ言わないで……それともやなの?」
せっかく俺から何かしようとしても,絶対に1度は距離を置く。
そう言う人間なんだって
「まさか!」
俺はふっとこぼして,受け入れた。
力む愛深に
「行くよ」
と自然に漏れた笑み。
そんなものに気付きもせずに,俺は踵を返した。