恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
気に入らない
ここに居たらいい
───────────────────
『暁くん!』
夕方,自販機の取り出し口に手を入れた俺の耳に届いた,嬉しそうな声。
「愛深……今帰るとこ?」
「そうなの! 陽菜……友達はデートらしくて,飲み物でも買って帰ろうかなって」
会えて嬉しい。
言外に伝えてくるその笑顔。
昼だって会ったのに。
「……そ」
背を向けて歩き出す。
愛深は慌てて水を買い落とすと,俺の横に並んだ。
今,帰るとこ?
なんて,わざわざ尋ねた自分が信じられない。
ちらりと愛深を見る。
愛深は少しも気付かない。
自然に目が行くようになった自分を自覚して,ご機嫌にまっすぐ前を見る愛深から目をそらした。
その愛深の動きが,電波をうまく受信しないテレビのように鈍る。
……愛深?