恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~


「愛深泣かしたら俺の友達がキレる。あと俺もなんか気に入らない」



そう,確実に弘がキレる。

なんなら,連れてくればよかった。

そして,俺は意外と,愛深のことを少し気に入ってたらしい。

多少大事にしてるから,横槍を入れられて腹が立つんだ。



「……あいつが泣くわけねぇだろ。少しつついたらいっつも表情消して。強がってて気持ちわりぃし。上から目線でうざいし……意見の食い違いで責められて,言い返してる時は泣いてたけど。あれはおもろかった。一瞬だけ声だして後は声殺して泣いてんの」



どうしてそこで笑えるのか,気持ち悪いのはお前の方だよって教えてあげたい。

愛深はいつも頑張ってるだけなのに。

……こいつは何も分かって無いんだな。

まず思わずにはいられない。

愛深がこいつの前で泣かなかったのは意地だけじゃなくてこいつのためでもあったはずなんだ。

最近愛深のことが少し分かってきた所だから,そんな思考になる。

愛深はきっと,自分が泣いたときの影響を考えたんだ。

大事にはしたくない。

だから,そんな代償と効果を天秤にして,いつも先を見据えてる。

友達の多い愛深。

こいつがより悪く思われたり,先生に怒られたり……

ついでに自分やこいつの親に電話がいくのを恐れたんだと思う。



「まぁなんでも良いけど,もう近寄らないでね? それだけだから,後の事には興味ない」



そう,近寄らないで。

愛深の近くにいるのは,愛深の大事な友達と,俺達だけでいい。



「何かあったら,俺と弘が仕返しするから」



睨むまでもない。

本気さえ伝わればいいんだから。

……めんどくさいし。

まあでも,これだけいっとけばあぁいうタイプは大丈夫。

逆上してエスカレートするやつもいるけど,あれは面倒なことがあればやめる程度のカスでクズなやつ。

ただの嫌がらせでたいした意味はない。 

……だから愛深も誰かに訴えずらかったのかな。

積み重なれば大きくなるのに,大したことはされてない,物理的な害がないから大丈夫だと思い込んで。

嫌がらせもここまで来ればいじめと呼んでもいいのに。

……バカだなぁ。

バカで,仕方ないんだよ愛深は。

だから。

今日だけ特別に優しくしてあげようかな。

今日だけ,本当に,今日だけ。

仕方なく……ね。
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