恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「ベーグル?」
やっと出たらしい答えは,あまりさっと出るよなものじゃない。
かと思えば
「うん! 陽菜……友達が美味しかったって言ってて。買ってどこかで食べない? 暁くんとこの市内だから,バイトも遅れないと思うよ」
おすすめされた場所だったみたいで。
3時のおやつ,なんて言葉が頭をよぎる。
なのに,その発想の中心は結局俺なのが,少し反応に困った。
「ん,わかった。後はどっかぷらぷらするでいい?」
「うん!」
そんな適当な予定にも,愛深は目をきらつかせて。
出掛けるプランなんて慣れてないって予防線を張ろうとしていた俺は,その言葉を飲み込んだ。
「ん」
さっと取り出したスマホを,愛深に向ける。
「え,と?」
愛深はまるで,本当に分からないかのように目を丸くした。
「連絡先。俺駅で待ってるけど,多分人多いでしょ。すれ違っても良くないから」
「え,え」
本当に分からなかったらしい。
俺から言っているのに,何故か遠慮するように,揺れるような反応を見せてくる。
「まぁそれ以外でも,普段なんか言いたくなったら使っていいし」
俺がしつこくしてるみたいで,この状態のまま待たされるのは少し嫌だと思った。
普段使い出来るなら,受け取りやすいだろうと思っての言葉だったのに,愛深は仰天して首を弱く振った。
「いや,大丈夫。多分できないし。でもありがとう。待ち合わせで活用させて貰うね」
茫然と言葉を返す愛深に,あっそ,と心の中で落とす。
でも,じっと小さな画面から目をそらさない愛深に,俺はほうと息を落とした。