恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
抱き締めたいなんて
クリスマス。
それだけで浮かれることを許されたような,いつもより賑やかな街。
それでなくたって,自分が一人で女子を待つ日が来るなんて。
この世はほんと,どうかしてる。
時計台の下,じっと立って待つ俺の視界に,ちらりと映る。
追うように見れば,はっきりと姿が見えた。
どこにあるのか,無駄に全身へと女子力を注いだような,愛深らしい愛深。
下ろした髪の毛は巻いてあるのか,くるくるふわふわ揺れている。
縦線のはいった茶色の服の上に,中が白くふわふわになった,フード付きの緑の上着を羽織り,下は暖かみのあるベージュピンクのスカート。
黒く短い靴下に,同じ色の厚底。
一歩歩くごとに,カランッと金色のシンプルな腕輪が2つ揺れた。
そんなに時間は取れないって,伝えたはずなのに。
そう思っている俺の前で,愛深は開けた場所に立つと,キョロキョロと辺りを見渡した。
俺を探してる。
そう思った途端,連絡しようと取り出したスマホを止めてしまう。
その俺の前で,愛深はスマホを取り出す。
……俺,まだ何も送ってないけど。
そう観察していたら,愛深も見当違いの連絡だったようで。
怒ったような顔でスマホを睨み付けた。
その様子がおかしくて,ほいと打つ。
大丈夫,愛深は,愛深。
「今度は何…」
そう口にしたんだろうか。
小さく唇が動いて,ムッと手元を見る。