恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「うーん。どこで食べよっか?」



購入して,真っ先に愛深はそう口にした。

表情豊かに眉を下げている。

お店の中の小さな空間は全て埋まっていて,再び出た外は更に寒い。

聞かれたままゆっくり考えていると



「ごめんね。私の家がこの市内にあれば良かったんだけど」



愛深はいっそう眉を垂らしてそんなことをいう。



「……は?」



不用心にも程がある。

ただでさえいつもぽえぽえしてるのに,自分から最もプライベートで密室な空間に人を連れ込む理由が分からない。



「え,なっなに?」



俺の反応を見ても,たじろいで瞳を丸くするだけ。



「この市内だったらって何?」



まさか,冗談だよね? 

便利くらいの気持ちであって,実際近くても連れていこうなんて考えないよね?



「え,いや普通に私の家で食べれたのになって思って……?」

「家に人は?」

「両親は仕事。妹は出掛けてるけど」



呆れたらいいのか,怒ったらいいのか。

俺の立場じゃ何一つ分からない。

だけど,どうしても言わなくちゃいけないことはある。



「まさか,今ここにいるのが俺じゃなくても同じこと言ってた?」

「まぁ,さすがに初めて会った人とかには言わないけど」
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