恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「女…の子?」



ひどく驚いた顔で見られて,愛深はさらにおろおろする。

その反応自体は想定内だけど,愛深をいじめるなと俺は言いたくなった。



「初めまして,青野 愛深といいます。突然来ちゃってすみません」



その間にも,愛深は勝手に深々と頭を下げてしまう。



「愛深,そうゆうのいいから。ここ座りな」

「お前自分の家みたいに……俺はてっきりクリスマスに寂しく弘ちゃんでも連れてきたのかと。ったく人の店をデートに使うな」

「デッ!?」

「愛深,気にしないで」

「う,うん」



気にしないで。

その言葉を受け止めて,他にも言いたいことがあるはずのに,愛深は悩んだ挙げ句口を閉じることを選んだ。

そんな愛深を横目で見て,俺はカウンターの上にベーグルを並べる。

愛深が順応するまで待ってると日が暮れてしまう。



「矢島のおっさん。ナイフ貸して」

「だから……へいへい。取り敢えずそのおっさんっての止めろ」

「矢島のおっさん,早く」

「お前なぁ。ったく仕方ねぇな」

「ははっ」



矢島のおっさん,その呼び方は今も昔も変わらない。

< 79 / 150 >

この作品をシェア

pagetop