恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「あっ暁くんちょっと待っててくれる? ベーグル食べるならカフェオレ買ってくる。暁くんもいる?」

「いらない。というよりは行かなくていい」



すっかり忘れてたけど。

俺は立ち上がる愛深を引き留める。

飲み物がいるなら。



「矢島のおっさん!」



俺はナイフを取りに行っていた矢島のおっさんに声を張った。



「今度はなんだぁ?」



直ぐにめんどくさそうな面倒見のいい声が返ってくる。

俺がなにも気に止めずに声を張れる場所なんて,あるわけもなくて。

だからこそ,ここは俺にとって大事な場所。



「カフェオレ2人分作れる?」

「お前ここどこだと思ってんだ。居酒屋だぞ」

「おっさん2階に住んでるし,まだ営業時間じゃないならただのおっさんの家でしょここ」



というか,この居心地は俺の家にしたい。

くらい,なんて,絶対一生口にすることはないけど。

だから俺は



「それでなくてもこっちは準備中なんだよ」

「どうせ客なんて来ないから大丈夫。それより早くして」

「毎日繁盛しとるわガキが」



ガキだ何だと言われるままに,それこそ子供のように矢島のおっさんを急かしたてた。
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