恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~




「あぁ,わりぃな,愛深……」



何より俺の有言実行が怖い矢島のおっさんは,恐々としながら愛深に謝る。

でも



「呼び捨てしないで」

「かといってちゃん付けしても言うんだろ」

「は? 当たり前でしょ。おっさんがちゃん付けとか普通にキモいから。青野さんとかで十分」

「お前まじでめんどくせぇのな」

「あの私は何でも」

「愛深は黙ってて」

「ははっ」



矢島のおっさんは乾いた笑いを落とした。



「愛深,俺は矢島 圭介(やじま けいすけ)。唯兎とは,唯兎の父親と友達だったから,チビの頃からの付き合いだ」

「……そう,ですか」



わざわざ強調されたたった3文字。

どこに居ようが,居なくなろうが。

友達に変わりないと自分も思っているくせに。

だったとたったそれだけ差し込むだけで,愛深は不審に思ってしまう。

だけど,愛深が言葉の続きを発する事はなかった。



「なんだ,唯兎お前見る目あるな」

「は? うるさいし,勝手に試すような真似しないでくれる? ごめんね愛深」

「お前ほんとは嬉しんだろ」



うるさいな。

嬉しそうにしてるのは,矢島のおっさんの方でしょ。
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