恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「────」



戻ってくると,愛深は1人何かを呟きながら前のクレーンゲームを見ていた。

積み上がった,手のひらサイズのマスコットキーホルダー。

愛深がそっと視線を外したところで,丁度近づいた俺は声をかける。



「何みてんの?」

「あっ暁くん。早いね,ありがとう」



口を広げたまま袋を前に出せば,その意図を理解した愛深は答えるより先に景品をいれた。



「あれ,たぶん取れないけど可愛いなと思って」



視線を映す。



「豆柴の?」



良く見るような,けれど人気を誇っていそうなマスコットキーホルダー。



「そう」



軽く頷いた愛深を見て,俺は100円を投入した。



「え,やるの? たぶん取れないよ」

「やったこと無いからやってみようと思って」

「無いの?!」

「コインは弘とやったことあるけど,興味なかったから……なにこれ,全然動かないんだけど」



まるでお尻を撫でるように,ほんの少し浮かした一瞬のあと,ポトリと寸分違わぬ位置に落ちる柴犬。



「あはは…」



黒いその柴犬の動きを見て,愛深は当然のような顔で苦笑する。

経験の差とでもいうつもり。
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