恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
なによりその表情にムカついて,俺はまた100円をいれた。

少しでも愛深の想像と違うことが起きればいい。



「まだやるの?」

「なんかムカつく」



結局,そのあと100円を入れ,500円を入れ,それでも取れないのを見ると愛深がストップをかけた。



「それ以上はさすがに」

「……もう小銭無いし」

「移動しよっか」



買った方が早い,なんて過った所で言い訳だと直ぐに打ち消す。

なるほどね,確かにあんなのが敵なら,目的は取ることの方と言う愛深の言葉にも頷ける。

そんな俺を困った顔で見ながら,愛深は出てすぐのところにあった雑貨屋を選んで入った。

店内を見渡し,自然と2人離れて行く。

使い勝手の良さそうな道具や置物を見て,俺はゲーセンでのことなど忘れてしまった。

へえ,小さいところだけど,案外色々あるんだ。

1歩1歩と歩みを進めると,目の前に映り込んで来た固そうなシルエット。

……マスコット?

黒と緑とピンクで,色違いの3種,小さすぎず大きくないウサギのマスコット。

進行方向の真正面に並んでいるからか,嫌に目を惹くそれに,自然と目線は下がり,俺は値段を確認していた。

財布にはすっからかんになった小銭。

ウサギは1000円もしない。

俺は3種の中から迷わず1つに手を伸ばし,脇の下に手を入れると,1000円1枚と共にレジへ連行する。

愛深のいる場所を横目に,早足で向かった。

心臓が,うるさい。

やったことも無いような,考えたこともないような動きを,自分がしているからだろう。

俺は言い訳のように,諦め置いてきた柴犬を思い出しながら呼吸を落ち着けた。

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