恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「何も買わないの?」
素知らぬ顔で声をかける。
愛深は,どこに行っても見かける,よく分からないカエルの小さな置物を眺めていた。
声をかけるまで,俺が近くに来ていることにすら気づかなかった。
この分なら大丈夫だと,ほっと息をはく。
「うん。まぁ。でもこういう店って見てるだけで楽しいよね」
「ふーん」
俺の心臓は,今,確かにそれどころではなくて。
少しだけ,けれど良く考えればいつも通りの,そっけない返事。
例の如く気にもしない愛深は,そのまま視線を俺のバッグに移した。
あれ,と首をかしげる愛深。
「何か買ったの?」
「……別に」
きょとんとした瞳に,俺は返さずに答えた。