恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「そろそろいい時間だね~」

「うん」



また,冷たい外。

6時の外は,冬らしく暗くなっていた。

愛深の言う通り,俺のタイムリミットが近くて。

だけど,愛深はそんなことちっとも気にしていなかった。

じゃあねと言ったら,直ぐにでも背を向けるような,そんな空気がある。




「暁くんはどうするの?」



この後の予定じゃない。

それはもう伝えたから。

愛深が言いたいのはきっと,どこで別れる? ってことだと思う。



「んー。取り敢えず駅まで送る」

「いいの!?」

「大したことじゃないでしょ」



俺が進みすぎた分振り返って答えれば,愛深の頬が嬉しそうに紅潮した。

期待してもないことが起こると,愛深は嬉しいらしい。

紅潮した頬の赤みはじんわりと噛み締めるように広がっていく。

その様子に,俺は何故か少しだけほっとした。

駅に戻ると,朝は目立ってなかったイルミネーションがキラキラと輝いている。

愛深はその景色を目に焼き付けるように数秒眺めると,ふと目線を下げた。

何を考えているのかは知らないけど,何かに気を取られている方が助かる。

あれを渡すなら,今しかない。



「ねぇ,これあげる。クリスマスプレゼントだとでも思って」

「え?」



他に考えてることがある時なら,深く考えず受け取ってくれると思った。

渡したのはピンクのウサギのマスコット。



「柴犬取れなかったから」



俺がそう言うと,理解したように愛深は苦笑した。

マスコットに目を落とし,じっくりと眺める愛深。
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