恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「されてないし,愛深はそんなつもりなさそうだった」
クリスマスが,この国でどんな扱いなのか,愛深だって散々触れてきたはず。
だけど愛深は最初から,だからと何かをするつもりなんてさらさらない。
ただ俺と過ごすことだけで,十分過ぎると思っているようだった。
「あぁやっぱりな。でもお前はちょっと期待したんだ」
「期待じゃない。あと,さっきから何なの?」
俺が何に,どんな期待をすると言うの。
これは,期待じゃない。
変化なく今日が来ていることに,安心しないでどうするんだ。
クリスマスだろうと,2人だけの1日だろうと。
これでようやく分かったことでしょ?
愛深が俺と付き合いたいなんて,告白することはもうきっとないんだって。
だから,誘いに乗るときも。
時計の下で愛深を待つときも,別れる時も。
期待も緊張も,1度だって顔を覗かせることは無かった。
だから弘の,何でも分かっているような風が気に入らない。
「期待じゃないならなに? 可能性があると知っていながらなんで行った。もし現実になっていたら,どうするつもりだった?」
弘に睨まれて,気づく。
なにも,考えてなかった。
そんなはずないから,考える必要もないなんて。
そんな最後には頭で嘘と理解する言葉を,渇く喉から送り出すことは出来ない。
俺はきっと,自分のために愛深を試しただけなんだ。
そしてただ,俺が断りたくなかっただけ。