恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
「それは,優しさじゃないだろ。愛深に甘えて逃げてるだけだ」
「関係,ないだろ」
とうとうそんな最低なことしか言い返す言葉が見つからなくて,最高にダサかった。
「いーや。関係あるね。俺は愛深の友達でもあるし,妹みたいに思ってる。一歩間違えば俺はいつでもあいつをそれ以上に思えるぜ?
要らないなら要らないで俺が貰う」
「無理だね。愛深は俺が大好きだから」
さらりと,考えるより先に飛び出ていた。
これが弘の言う,自覚なんだろうか。
自惚れなんかじゃない。
「よくそんな恥ずかしいこと平気でいえるね」
弘は呆れて見せるけど,それは事実だった。
「でもな,唯兎。人の気持ちは変わる。ずっと俺と一緒にいたお前なら俺のよさ一番知ってんだろ?」
それは,そうだ。
でも,別にだから何?
声にならなかったそれは俺の胸に巣くい,ざわざわとかきみだした。
そう,自惚れなんかじゃない。
でも,慢心だって弘は伝えてくる。
そんなの,知らない。
もう,どうでもいい。
慢心だろうがなんだろうが,結局は愛深の気持ちなんだから。
変わったところで,その相手が弘だった所で。
「ちゃんと考えろよ。絶対愛深を傷つけるな」
なんだって言うの。
そう言葉が脳に響く直前,弘はどこまでも真っ直ぐ俺を見て,俺はそれから逃れるために,視線を外した。
愛深のため。
俺のため。
2人のため。
それは反射的なもので,罰が悪くなって弘をみると,まるで仕方のないものでもみるような,困った眼差しを俺に向けていた。
どこまでも,弘は平等で,本当に優しい人間だ。
そのせいで,いつも俺の隣にいて。
弘はどこに行こうと苦労人で。
俺とは違う,本当にいい人なんだ。
分かってる,分かってるけど。
今はそれを,受け入れることが出来ない。
だってそれをすることは,いつもただ好きだと笑ってくれる愛深と,向き合うことだから。