恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
……しずか。
ゆっくり目を開けて,最初に抱いた感想だった。
昨日のことを思い返しながら起き上がり,ピリリとした頬の痛みに顔を歪める。
人の気配はなくて,もう母さんは行ってしまったと気付いた。
頬に触れると,筋になっている。
このままで登校しても,絆創膏を適当に張っても。
全て知る弘はともかく,愛深がきっとうるさい。
どうしたものかと,どうにか出来ないかと考えて,息をはくと,その息はどうも熱かった。
丁度いいと考えてしまって,直ぐに学校へ連絡を入れる。
少し起きていただけで,身体は重くなっていき,仕方なく俺は弘にも連絡を入れた。
『悪いけど,ポカリかなんか買ってきて』
『りー』
直ぐに返ってくる返事を見て,重たく霞む目蓋をおろす。
じわりと涙がはみ出て,スマホを持つ手はだらんと下に下ろした。
おやすみ,おかえり,いってらっしゃい。
何度もあげたかった言葉,何度も聞き取って貰えなかった,気持ちと同じだけ小さかった声。
俺の声が,俺の頭に響いていた。