恋と旧懐~兎な彼と1人の女の子~
カンカンと言う固い音で,目が覚めた。
覚醒しきらない頭で,どうせ隣かその隣あたりの住人が帰ってきたんだろうと推測する。
じゃあ……もう,夕方?
ぐぅぅぅと情けない音で,お腹がへこむ。
ーピンポーン
最悪な気持ちの俺の耳に届いたのは,この家のインターフォン。
弘に何か頼んだことを思い出して,俺はのっそりと立ち上がった。
あぁ,そうだ。
何かじゃなくて,ポカリ。
動いてみてよく分かる。
空腹も嫌な作用をもたらしているのかふらふらして,身体がだるかった。
体当たりで壊れてしまいそうなドアのドアノブに手をかけて,玄関に裸足のまま立つ。
「弘,あんが……は? 愛深? はぁ……もういいや。めんどくさい,早く入って」
愛深だ,目の前にいたのは。
1人で,無防備に,住む地域も違う異性の家に来るなんて,どうかしてる。
入れるなとは言ったけど,行くなとも言っておいた方が良かったとでもいうのかな。
大方,家は弘にでも聞いたんだろう。
その証拠が,愛深の手にする袋であって,教えたどころか弘に頼まれて来たんだと分かった。
俺はなんとなく事のあらましを理解して,愛深の手を掴み,自分の腕を勢いよく後ろに引いた。
驚いた瞳の愛深が,目の前にいる。
俺以外誰も居なかったこの部屋に,俺に,飛び込んでくる。
愛深の香りがふわりと香って,俺は半ば抱き締める形で愛深を部屋にあげた。