一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
ふと目が覚めると目の前に松下さんの顔があり驚いた。

そして現実に戻された。

あぁ、なんてことをしてしまったのだろう。

私はベッドの下に散らかった衣類を見て唖然とした。そして慌ててかき集め、そっとベッドルームを出た。
すぐに着替えを済ませると玄関に転がっていたバッグを持ち、パンプスを履くとエレベーターに乗った。
直通でエントランスに降り、そのまま外に出ると朝焼けが見えていた。

私はトボトボとあてもなく歩き始めた。

あぁ、どうしてこんなことになったんだろう。
まさか松下さんとこんなことになるなんて思ってもみなかった。
私の話を聞いて、しかも泣かれて困ったんだろうな。
だから同情してくれたに違いない。
松下さんは温かい人だから、私を不憫に思ってくれたんだろう。
これから辞めるまではどんな顔をして働いたらいいのかわからない。
でも……松下さんの腕の中にたった一晩でもいられたことは私の人生でかけがえのない想い出になった。
もうこれで思い残すことはない。

朝日が昇る空に両手を伸ばし、空を見上げた。
冬の澄んだ空気が私の体に入ってきた。
私の心はこれで冷え固まった。
もうこの幸せな想い出だけで生きていこうと思った。
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