一夜限りのはずだったのに実は愛されてました
「ん?最後って?思い出ってなに?」
「あ……」
「紗夜。なんのこと?」
「えっと……」
私はなんて話したらいいのかわからなかった。
たまたま漏らしてしまっただけでまだいうつもりはなかったから退職理由を考えていなかった。
松下さんは聞き流してくれずに私に詰め寄る。
「紗夜、なんの話?」
観念した私は松下さんにお見合いの件を話し始めた。
「父にお見合いするように言われています。それで、仕事を辞めて九州へ戻るようにと……」
「結婚が決まってもいないのに仕事を辞めるのは早計じゃないか?紗夜はその人と結婚したいのか?」
「いえ。でも結婚は決まったことなので覆せません。父の言うことは絶対です。むしろここまで自由にさせてくれたことが信じられないくらいです。東京で大学を出れたことも働けたこともいっしょの思い出です。今日の松下さんとの蟹も忘れません」
「何故結婚が決まってるんだ?お見合いなんだろ?」
「えっと……いわゆる政略結婚ですかね」
そこまで聞くと松下さんの表情は固まり、私に向けて聞いてきた。
「紗夜は結婚したくはないんだな?」
「したくはないけど決まったことです。月末に帰省したらお見合いさせられて、九州に戻らされます」
今の時代に身売りのような政略結婚があるなんて、と松下さんのような人には信じられないだろう。
でもうちの家業のためには必要なこと。
松下さんは黙り込んでしまった。
「優しい人だといいんですけどね。10歳年上らしいんです。それに2歳の子供がいるそうで、わたしはその子の養母になるんですって……」
私は泣き笑いしながら話し始めた。
こんな理不尽なお見合いを受けなければならないことを誰でもない、松下さんに聞いて欲しかったのかもしれない。
私が喜んで会社を辞め、結婚するんじゃないって事を知っていて欲しかった。
「なんだ、それは。まだ若い紗夜に継母になれってことか?しかもまだ見てもいないのに結婚が決められ、断る選択肢もなく旦那と子供が出来るのか?」
私はなんとか表情を保ったまま頷いた。
「後悔はないのか?それでいいのか?」
「後悔……。ありますよ。私は誰とも付きあったこともなく、好きな人と想いを通わせたこともないんですよ。それなのに好きでもない人の元に嫁ぐなんて」
私は徐々に涙腺が崩壊し始め、ポタポタと畳に涙のシミができた。
手で押さえるけれどとめどなく流れる涙を止める術はなかった。
毎晩布団の中で歯を食いしばり、泣くのを我慢していたのに、どうしてかここで涙腺が緩んでしまった。
「ご、ごめんなさい。ずっと泣かずに我慢してきたのに……アハハ。松下さんも困っちゃいますよね」
私はしゃくり上げながら、ハンカチを探すが見つからない。
すると急に目の前が暗くなった。
温かい手が背中に回り、私を抱きしめているんだと気がつくまで時間がかかった。
私は変わらず涙が出てきて松下さんのワイシャツを濡らしていく。
「ま、松下さん。ワイシャツ汚しちゃう」
「そんなことはどうでもいい。紗夜、こんなになるまで気が付かなくて悪かった。我慢しなくていい。泣いて全部吐き出せ」
改めて私のことを強く抱きしめてくれた。
私は初めて男性に抱きしめられた。
こんなに力強いって知らなかった。
包み込まれるように、守られているように感じた。
初めて抱きしめられたのが松下さんで、もう一生分の幸せを今、手にしたと思った。
松下さんの温かさに嗚咽を漏らしながらワイシャツにしがみついて泣いてしまった。
辛かった気持ちが溢れ、吐き出していいと言わたことでタガが外れてしまった。
どれだけ泣いたのだろう。
ようやく涙が枯れてきた。
けれど子供のように泣いてしまい、恥ずかしくて顔があげられない。
すると松下さんはそんな様子に気がついたようで私を抱きしめる手が少し緩んだ。
その少しの緩みでさえ寂しく感じてしまう。
松下さんは私を見下ろすと右手で顎を掬い上げられた。
そのまま松下さんの唇が私の口を塞いだ。
驚いて完全に涙が止まったが、松下さんはキスを止める気配はない。
柔らかく温かい彼の唇が私の心を温めてくれる。
やがてその唇は両方の瞼に触れ、鼻先に触れ、また唇に戻ってきた。
私は彼のシャツを握りしめ、されるままになっていた。
「紗夜、可愛いよ」
そういうとまた唇を塞がれた。
彼にされるがままに唇を許した。
私の髪の毛を梳きながら頭を押さえられ、徐々にキスが激しくなるのがわかった。
彼の舌が入り込み、私の中を探り出す。
私は初めてのことにどうしていいかわからない。
「紗夜、舌出して」
耳元で囁かれると、その声にぞくっとした。
彼のこんなにも色気のあるの声はきいたことがない。
促されるままに舌を出すとすぐに絡められた。
ん……
はぁ……
私は必死で松下さんにしがみついた。
「紗夜、場所を変えよう」
また耳元で囁かれた。
それがどういうことなのか、経験はなくても理解した。
松下さんがくれる最後の想い出をだと思った。
「あ……」
「紗夜。なんのこと?」
「えっと……」
私はなんて話したらいいのかわからなかった。
たまたま漏らしてしまっただけでまだいうつもりはなかったから退職理由を考えていなかった。
松下さんは聞き流してくれずに私に詰め寄る。
「紗夜、なんの話?」
観念した私は松下さんにお見合いの件を話し始めた。
「父にお見合いするように言われています。それで、仕事を辞めて九州へ戻るようにと……」
「結婚が決まってもいないのに仕事を辞めるのは早計じゃないか?紗夜はその人と結婚したいのか?」
「いえ。でも結婚は決まったことなので覆せません。父の言うことは絶対です。むしろここまで自由にさせてくれたことが信じられないくらいです。東京で大学を出れたことも働けたこともいっしょの思い出です。今日の松下さんとの蟹も忘れません」
「何故結婚が決まってるんだ?お見合いなんだろ?」
「えっと……いわゆる政略結婚ですかね」
そこまで聞くと松下さんの表情は固まり、私に向けて聞いてきた。
「紗夜は結婚したくはないんだな?」
「したくはないけど決まったことです。月末に帰省したらお見合いさせられて、九州に戻らされます」
今の時代に身売りのような政略結婚があるなんて、と松下さんのような人には信じられないだろう。
でもうちの家業のためには必要なこと。
松下さんは黙り込んでしまった。
「優しい人だといいんですけどね。10歳年上らしいんです。それに2歳の子供がいるそうで、わたしはその子の養母になるんですって……」
私は泣き笑いしながら話し始めた。
こんな理不尽なお見合いを受けなければならないことを誰でもない、松下さんに聞いて欲しかったのかもしれない。
私が喜んで会社を辞め、結婚するんじゃないって事を知っていて欲しかった。
「なんだ、それは。まだ若い紗夜に継母になれってことか?しかもまだ見てもいないのに結婚が決められ、断る選択肢もなく旦那と子供が出来るのか?」
私はなんとか表情を保ったまま頷いた。
「後悔はないのか?それでいいのか?」
「後悔……。ありますよ。私は誰とも付きあったこともなく、好きな人と想いを通わせたこともないんですよ。それなのに好きでもない人の元に嫁ぐなんて」
私は徐々に涙腺が崩壊し始め、ポタポタと畳に涙のシミができた。
手で押さえるけれどとめどなく流れる涙を止める術はなかった。
毎晩布団の中で歯を食いしばり、泣くのを我慢していたのに、どうしてかここで涙腺が緩んでしまった。
「ご、ごめんなさい。ずっと泣かずに我慢してきたのに……アハハ。松下さんも困っちゃいますよね」
私はしゃくり上げながら、ハンカチを探すが見つからない。
すると急に目の前が暗くなった。
温かい手が背中に回り、私を抱きしめているんだと気がつくまで時間がかかった。
私は変わらず涙が出てきて松下さんのワイシャツを濡らしていく。
「ま、松下さん。ワイシャツ汚しちゃう」
「そんなことはどうでもいい。紗夜、こんなになるまで気が付かなくて悪かった。我慢しなくていい。泣いて全部吐き出せ」
改めて私のことを強く抱きしめてくれた。
私は初めて男性に抱きしめられた。
こんなに力強いって知らなかった。
包み込まれるように、守られているように感じた。
初めて抱きしめられたのが松下さんで、もう一生分の幸せを今、手にしたと思った。
松下さんの温かさに嗚咽を漏らしながらワイシャツにしがみついて泣いてしまった。
辛かった気持ちが溢れ、吐き出していいと言わたことでタガが外れてしまった。
どれだけ泣いたのだろう。
ようやく涙が枯れてきた。
けれど子供のように泣いてしまい、恥ずかしくて顔があげられない。
すると松下さんはそんな様子に気がついたようで私を抱きしめる手が少し緩んだ。
その少しの緩みでさえ寂しく感じてしまう。
松下さんは私を見下ろすと右手で顎を掬い上げられた。
そのまま松下さんの唇が私の口を塞いだ。
驚いて完全に涙が止まったが、松下さんはキスを止める気配はない。
柔らかく温かい彼の唇が私の心を温めてくれる。
やがてその唇は両方の瞼に触れ、鼻先に触れ、また唇に戻ってきた。
私は彼のシャツを握りしめ、されるままになっていた。
「紗夜、可愛いよ」
そういうとまた唇を塞がれた。
彼にされるがままに唇を許した。
私の髪の毛を梳きながら頭を押さえられ、徐々にキスが激しくなるのがわかった。
彼の舌が入り込み、私の中を探り出す。
私は初めてのことにどうしていいかわからない。
「紗夜、舌出して」
耳元で囁かれると、その声にぞくっとした。
彼のこんなにも色気のあるの声はきいたことがない。
促されるままに舌を出すとすぐに絡められた。
ん……
はぁ……
私は必死で松下さんにしがみついた。
「紗夜、場所を変えよう」
また耳元で囁かれた。
それがどういうことなのか、経験はなくても理解した。
松下さんがくれる最後の想い出をだと思った。