人助けをしたら人気俳優との同居が始まりました
2人きりの夜
1
約束のお墓参りの前日、叶恵が職員食堂で昼食を食べているときだった。
「お疲れさまです。ここ、いいですか」
「あ、どうぞ」
昼食の乗ったトレイを持って声をかけてきたのは、内科医の早見だ。
席はほかにもたくさん空いていたが、さすがにいやだとは言えなかった。
「高崎先生は、お盆はお休みじゃなかったんですよね?」
「はい。近藤先生が産休に入られて、副部長と新田先生がご家庭の事情でお盆にお休みを申請されて、救命部にも週2回勤務している関係で休みが取れなくて……」
「それはお疲れさまでした。そういえば、近藤先生の代わりの先生は決まったんですか」
「はい。来月からお見えになるそうです」
早見のことが苦手な叶恵は早く食べ終えて行こうと思うが、残念ながら叶恵も今来たばかりだった。
誤解がないように言っておくと、決して早見はいやな人ではない。
それどころか優しげな風貌と穏やかな性格をしている上に32歳の独身なので、患者はもちろん独身の女性スタッフからも絶大な人気がある。
早見と出会った当初は叶恵も苦手意識を持っていなかったが、何度か夕食に誘われて気乗りしなくて断り続けるうちに、顔を合わせるのがいやになったのだ。
行く気がないのに誘われることは苦痛でしかないから。
それでも彩に説得されてしぶしぶ誘いに乗ったのは、先月末のことだった。
ただ共通の話題といえば仕事のことしかなく、叶恵は行ったことを後悔した。
「高崎先生、明日お休みなら、よければ今夜飲みに行きませんか」
まただ、とため息をつきそうになる。
ただし今までと違い、今日は断る理由がある。
太郎が面白いと言っていた映画を家で一緒に見る約束をしているのだ。
「ごめんなさい。今夜は先約があるんです」
「そうですか。あ、だったら明日はどうですか。何もご予定がないなら映画でも観に行きませんか」
「申し訳ないんですけど、明日も予定があるんです。すみません」
明日はみんなでお墓参りに行くことが決定している。
それにたとえ予定がなかったとしても、早見と出かける気はなかった。
そもそも早見の曖昧な態度が叶恵はいやだった。
好きだと言ってくれたらはっきり断ることができる。
でも好きだと言われたことは今まで1度もない。
ただ誘ってくるだけ。
でもあれだけ誘いを断れば脈がないと察して諦めてくれてもいいはずなのに、それもない。
結局、誘いを断り続けるしか現時点での対処法はないのだ。
「いえ、気にしないでください。日を改めて、またお誘いしますね」
「でもしばらくは事情があって休みの日は忙しいんです。それじゃあお先に」
半分近く食べないまま、叶恵は席を立った。
正当な理由があったおかげで何の罪悪感も持たずに早見の誘いを断ることができたことを、太郎に感謝したくなった。
「お疲れさまです。ここ、いいですか」
「あ、どうぞ」
昼食の乗ったトレイを持って声をかけてきたのは、内科医の早見だ。
席はほかにもたくさん空いていたが、さすがにいやだとは言えなかった。
「高崎先生は、お盆はお休みじゃなかったんですよね?」
「はい。近藤先生が産休に入られて、副部長と新田先生がご家庭の事情でお盆にお休みを申請されて、救命部にも週2回勤務している関係で休みが取れなくて……」
「それはお疲れさまでした。そういえば、近藤先生の代わりの先生は決まったんですか」
「はい。来月からお見えになるそうです」
早見のことが苦手な叶恵は早く食べ終えて行こうと思うが、残念ながら叶恵も今来たばかりだった。
誤解がないように言っておくと、決して早見はいやな人ではない。
それどころか優しげな風貌と穏やかな性格をしている上に32歳の独身なので、患者はもちろん独身の女性スタッフからも絶大な人気がある。
早見と出会った当初は叶恵も苦手意識を持っていなかったが、何度か夕食に誘われて気乗りしなくて断り続けるうちに、顔を合わせるのがいやになったのだ。
行く気がないのに誘われることは苦痛でしかないから。
それでも彩に説得されてしぶしぶ誘いに乗ったのは、先月末のことだった。
ただ共通の話題といえば仕事のことしかなく、叶恵は行ったことを後悔した。
「高崎先生、明日お休みなら、よければ今夜飲みに行きませんか」
まただ、とため息をつきそうになる。
ただし今までと違い、今日は断る理由がある。
太郎が面白いと言っていた映画を家で一緒に見る約束をしているのだ。
「ごめんなさい。今夜は先約があるんです」
「そうですか。あ、だったら明日はどうですか。何もご予定がないなら映画でも観に行きませんか」
「申し訳ないんですけど、明日も予定があるんです。すみません」
明日はみんなでお墓参りに行くことが決定している。
それにたとえ予定がなかったとしても、早見と出かける気はなかった。
そもそも早見の曖昧な態度が叶恵はいやだった。
好きだと言ってくれたらはっきり断ることができる。
でも好きだと言われたことは今まで1度もない。
ただ誘ってくるだけ。
でもあれだけ誘いを断れば脈がないと察して諦めてくれてもいいはずなのに、それもない。
結局、誘いを断り続けるしか現時点での対処法はないのだ。
「いえ、気にしないでください。日を改めて、またお誘いしますね」
「でもしばらくは事情があって休みの日は忙しいんです。それじゃあお先に」
半分近く食べないまま、叶恵は席を立った。
正当な理由があったおかげで何の罪悪感も持たずに早見の誘いを断ることができたことを、太郎に感謝したくなった。