人助けをしたら人気俳優との同居が始まりました

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 このままだと気分がずるずると沈みそうだったので、叶恵はそれらの考えを振り切るように思いついたことを提案する。

「ねえ。せっかく来たんだから、足だけでも海に入らない?」
「いいね」
「あ、でもタオルがないから足が拭けないね」
「じゃあコンビニで買ってくるから待ってて。来る途中にあったよね」
「冷たいものが飲みたいから、私も一緒に行く」

 スマホで場所を確認して行こうとした太郎に向かって、叶恵は手を伸ばした。
 察した太郎は笑ってその手を取って立ち上がらせる。
 すぐに放されるかと思った手は、まるでそうするのが当然とでもいうようにそのまま優しく握られた。
 そのことがなぜだか嬉しくて、叶恵もそっと太郎の手を握り返す。

「暑いからかき氷食べたいな」
「そういえば、商店街の途中で左に曲がったところに氷屋さんがあるの知ってる?」
「知ってる。この前國吉さんと行ってきた。あそこ、シロップの種類がハンパないよね。しかも上下で2種類選べるし」
「でもうっかり変な組み合わせにすると、真ん中がすっごく微妙な味になるのよね」
「そうそう。この前トマトとコーヒー選んだんだけど、真ん中は本当に微妙だった」
「どうしてそんな組み合わせにしたのよ?」
「どっちも食べてみたかったから」

 そんな他愛もない話をしながら5分ほど歩いてコンビニに行き、タオルとお茶とかき氷代わりのフラッペを買う。
 すると、店を出たところにいた数人の小学生がこちらをチラチラ見ながら肘をつつき合っていた。

「ねえ、太郎くん。あの子たちこっち見てるよ。もしかしてバレたんじゃない?」
「でも小学生相手ならたぶん大丈夫。とりあえず叶恵さんは、俺の彼女のふりしてて」

 そう言うと、太郎は自ら小学生に声をかける。

「君たち、俺に何か用?」
「お兄さん、もしかして山内蓮じゃない?」

 仲間内で顔を見合わせながら、そのうちの1人が予想どおりの質問をしてきた。

「ハハハ。俺、山内蓮に似てるってよく言われるんだよね。そんなに似てる?」
「似てるっていうか、本人じゃん」
「いやいや、残念ながら違うよ。だいたい山内蓮って、女優の秋山リサと付き合ってるんだろう? 俺の彼女はこの人だもん」

 なんとなくどうすればいいか空気を察し、叶恵は太郎の袖をクイッと引っ張って、小学生に聞こえるように声をかける。

「太郎くん、行こうよ」
「そういうわけで、別人だから。俺なんかと山内蓮を見間違うと、山内蓮に失礼だよ」
「お兄さん、今度そっくりさん募集の番組があったら応募しなよ。絶対優勝できるから」
「ありがとう。じゃあね」

 太郎は両手に持っていたフラッペとビニール袋を片手に持ちなおし、空いた手で叶恵の手を握る。
 叶恵は今度も手をほどかなかった。

「太郎くんって、秋山リサと付き合ってたの?」

 小学生と距離が開いたところで、我慢できずに叶恵は聞いた。
 秋山リサはモデル出身の女優で、太郎が今一番の人気俳優なら、秋山リサは一番の人気女優ともいえる存在だ。

「一時期写真週刊誌にツーショットが載って、しばらくは付き合ってることになってたよ。知らなかった?」
「うん。あんまりそういうの見ないし、興味もないし。っていうか、付き合ってることになってたってどういうこと?」
「映画で共演したことによる大人の事情だよ。リサも帰国子女で、アメリカで住んでた所が近いことが分かってからすごく仲良くなったけど、妹みたいなものかな。時間が合えば飲みに行くことはあるけどね」
「そうなんだ」

 胸がもやもやするのに気づかないふりをして、何気ない口調を装う。

「だから、もしも今後リサとの記事が出たとしても、それは嘘だから」
「でも、あんな美人と飲みに行って、お互いにときめいたりしないの? 付き合おうとかならないの?」
「ならないな。そもそも飲みに行くのは、アイツの恋愛相談に乗ってるからなんだ。それよりも、そんなこと言って俺の気持ちを疑ってると、強硬手段とるよ?」

 イジワルな笑みで顔を覗きこまれ、叶恵は慌てて首を横に振る。

「強硬手段が何かは分からないけど、遠慮します」
「じゃあ、俺が好きなのも付き合いたいのも叶恵さんだって、信じてくれる?」
「信じる。信じます」
「よろしい」
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