人助けをしたら人気俳優との同居が始まりました
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「ちょっと座ろうか。あ、そうだ」
そばのベンチに叶恵を座らせた太郎は持ってきたトートバッグの中をガサゴソと探して、得意げに「ジャーン」と何かを取り出す。
それを見た叶恵は思わず吹き出した。
「蚊取り線香持ってきたの⁉」
「夏といったらこれでしょ。虫よけスプレーは風情を感じないじゃん」
ライターとケースを取り出して、蚊取り線香に火をつける。
「今さ、蚊取り線香って百均にもあるんだね。さすが百均だよね」
「どうせなら、ブタさんの入れ物がよかったな」
「そういうワガママ言う子には、今夜たっぷりお仕置きしなきゃね」
隣に座りながらニヤッと笑われ、叶恵は自分の迂闊な冗談を後悔すると同時にドキドキした。
太郎が自分をからかうときに見せるその笑顔が、叶恵は一番好きだから。
「じゃあ、次はこれで手を拭いて」
差し出されたウエットティッシュで言われるままに手を拭いていると、次に太郎は保冷バッグを取り出す。
「叶恵さんを待ってる間ヒマだったから、夕飯代わりにサンドイッチ作ったんだ」
「わざわざ作ってくれたの⁉」
「本当は明日作るつもりだったのを今日作っただけだよ。えっとね、3種類あるんだ。ハムとコールスロー、玉子、スモークサーモンとアボカド。どれから食べる?」
「スモークサーモンとアボカドがいいな」
「はい、どうぞ」
「ありがとう。いただきます」
ラップをはがして一口食べると、香ばしいスモークサーモンとその塩味を中和するアボカド、そして全体をまろやかにするクリームチーズの味が、パンの小麦の香りとともにふわりと口の中に広がる。
「太郎くん、すっごく美味しい。お店で買ったみたい」
「ありがとう。そう言ってもらえて俺も嬉しい。あ、アイスコーヒーもあるよ」
今度はマグボトルが出てくる。
受け取って飲むと、豆から淹れたものだと分かった。
「本当に、何から何までありがとう。すっごく嬉しい」
「どういたしまして。俺と違って仕事が忙しい彼女は大切にしないとね」
「……彼女じゃないときも大切にしてくれてたよ?」
一緒に住み始めてからのこの約3週間、太郎は常に優しかった。
自分がどれだけ太郎に甘やかされて大切にされていたか、それによって自分がどれだけ癒されていたか、思い返せばたくさんある。
「それは好きになってもらうためだもん。でも安心して。俺、釣った魚にはこれでもかっていうくらいエサを与えるタイプだから」
「じゃあ私はまんまと釣られたわけね」
「そ。今の俺は頑張って餌付けしてるところ。あとで美味しく食べるためにね」
今夜のことを匂わすことを言ってくる太郎の言葉に、叶恵の頬は熱くなる。
冗談っぽく言っているけれど、本気なことが分かるからタチが悪い。
「次、どっちがいい?」
「玉子にする」
差し出されたのは、厚焼き玉子のサンドイッチだった。
「私、厚焼きの玉子サンド食べるの初めて。うちで作るときはゆで玉子とマヨネーズで作るから」
「そっちにしようかと思ったけど、コールスローでマヨネーズ使ったっから、味が違う方がいいかと思って」
本当に細かい気遣いができるなあと感心する。
自分もそうできるようになりたいと思いながら玉子サンドを頬張ると、懐かしい味がした。
「太郎くん、もしかしてこれ」
「あ、やっぱり分かった? 実は絹江さんに厚焼き玉子のレシピ教えてもらったんだ」
「パンにはさんで食べても美味しいんだね。考えたこともなかった」
「厚焼き玉子って結構作るの難しくてさ。失敗しなくてよかったよ」
「太郎くんって、本当に料理上手だよね。今まで太郎くんが作ってくれたの、どれも美味しかったもん」
太郎が一緒に住むようになってからほとんど毎日、最低1品は太郎が作った料理が食卓に並んでいた。
簡単なサラダやみそ汁やスープなどの汁物はもちろんのこと、メインとなるおかずまで、そのどれもが美味しかった。
「ありがとう。でもかなり絹江さんに教えてもらってたよ。なにしろ花婿修業だからね」
「もはや居候太郎くんじゃないよね」
「それなら、花婿太郎に改名しようかな」
「んー。それは響きがかわいくないから却下」
「ハハハ。じゃあ最後のひとつね」
「これが一番楽しみだったの。私、太郎くんのコールスロー大好き」
叶恵にサンドイッチを渡しながら、太郎は笑う。
「そんなに気に入ってくれてたんだ」
「うん。味のバランスがちょうどいい。今度分量教えて」
「それは無理。いつも目分量で適当だから、もしかしたら今日のは味が違うかも」
確かめるために一口食べたが、前回食べたのと違いを感じなかった。
「違わないよ。マヨネーズと酢のバランスがちょうどよくて、やっぱり美味しい」
「好きな人に自分が作ったのを美味しいって言われると、本当に嬉しいね」
「私の方こそ、こんなに美味しいサンドイッチ作ってもらって嬉しかった。本当にありがとう。ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
そばのベンチに叶恵を座らせた太郎は持ってきたトートバッグの中をガサゴソと探して、得意げに「ジャーン」と何かを取り出す。
それを見た叶恵は思わず吹き出した。
「蚊取り線香持ってきたの⁉」
「夏といったらこれでしょ。虫よけスプレーは風情を感じないじゃん」
ライターとケースを取り出して、蚊取り線香に火をつける。
「今さ、蚊取り線香って百均にもあるんだね。さすが百均だよね」
「どうせなら、ブタさんの入れ物がよかったな」
「そういうワガママ言う子には、今夜たっぷりお仕置きしなきゃね」
隣に座りながらニヤッと笑われ、叶恵は自分の迂闊な冗談を後悔すると同時にドキドキした。
太郎が自分をからかうときに見せるその笑顔が、叶恵は一番好きだから。
「じゃあ、次はこれで手を拭いて」
差し出されたウエットティッシュで言われるままに手を拭いていると、次に太郎は保冷バッグを取り出す。
「叶恵さんを待ってる間ヒマだったから、夕飯代わりにサンドイッチ作ったんだ」
「わざわざ作ってくれたの⁉」
「本当は明日作るつもりだったのを今日作っただけだよ。えっとね、3種類あるんだ。ハムとコールスロー、玉子、スモークサーモンとアボカド。どれから食べる?」
「スモークサーモンとアボカドがいいな」
「はい、どうぞ」
「ありがとう。いただきます」
ラップをはがして一口食べると、香ばしいスモークサーモンとその塩味を中和するアボカド、そして全体をまろやかにするクリームチーズの味が、パンの小麦の香りとともにふわりと口の中に広がる。
「太郎くん、すっごく美味しい。お店で買ったみたい」
「ありがとう。そう言ってもらえて俺も嬉しい。あ、アイスコーヒーもあるよ」
今度はマグボトルが出てくる。
受け取って飲むと、豆から淹れたものだと分かった。
「本当に、何から何までありがとう。すっごく嬉しい」
「どういたしまして。俺と違って仕事が忙しい彼女は大切にしないとね」
「……彼女じゃないときも大切にしてくれてたよ?」
一緒に住み始めてからのこの約3週間、太郎は常に優しかった。
自分がどれだけ太郎に甘やかされて大切にされていたか、それによって自分がどれだけ癒されていたか、思い返せばたくさんある。
「それは好きになってもらうためだもん。でも安心して。俺、釣った魚にはこれでもかっていうくらいエサを与えるタイプだから」
「じゃあ私はまんまと釣られたわけね」
「そ。今の俺は頑張って餌付けしてるところ。あとで美味しく食べるためにね」
今夜のことを匂わすことを言ってくる太郎の言葉に、叶恵の頬は熱くなる。
冗談っぽく言っているけれど、本気なことが分かるからタチが悪い。
「次、どっちがいい?」
「玉子にする」
差し出されたのは、厚焼き玉子のサンドイッチだった。
「私、厚焼きの玉子サンド食べるの初めて。うちで作るときはゆで玉子とマヨネーズで作るから」
「そっちにしようかと思ったけど、コールスローでマヨネーズ使ったっから、味が違う方がいいかと思って」
本当に細かい気遣いができるなあと感心する。
自分もそうできるようになりたいと思いながら玉子サンドを頬張ると、懐かしい味がした。
「太郎くん、もしかしてこれ」
「あ、やっぱり分かった? 実は絹江さんに厚焼き玉子のレシピ教えてもらったんだ」
「パンにはさんで食べても美味しいんだね。考えたこともなかった」
「厚焼き玉子って結構作るの難しくてさ。失敗しなくてよかったよ」
「太郎くんって、本当に料理上手だよね。今まで太郎くんが作ってくれたの、どれも美味しかったもん」
太郎が一緒に住むようになってからほとんど毎日、最低1品は太郎が作った料理が食卓に並んでいた。
簡単なサラダやみそ汁やスープなどの汁物はもちろんのこと、メインとなるおかずまで、そのどれもが美味しかった。
「ありがとう。でもかなり絹江さんに教えてもらってたよ。なにしろ花婿修業だからね」
「もはや居候太郎くんじゃないよね」
「それなら、花婿太郎に改名しようかな」
「んー。それは響きがかわいくないから却下」
「ハハハ。じゃあ最後のひとつね」
「これが一番楽しみだったの。私、太郎くんのコールスロー大好き」
叶恵にサンドイッチを渡しながら、太郎は笑う。
「そんなに気に入ってくれてたんだ」
「うん。味のバランスがちょうどいい。今度分量教えて」
「それは無理。いつも目分量で適当だから、もしかしたら今日のは味が違うかも」
確かめるために一口食べたが、前回食べたのと違いを感じなかった。
「違わないよ。マヨネーズと酢のバランスがちょうどよくて、やっぱり美味しい」
「好きな人に自分が作ったのを美味しいって言われると、本当に嬉しいね」
「私の方こそ、こんなに美味しいサンドイッチ作ってもらって嬉しかった。本当にありがとう。ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」