人助けをしたら人気俳優との同居が始まりました

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　叶恵の頭の中を、疑問符が飛び回る。
　今の3人の会話は、いったいどういうことなのだろう。
　どこをどうひっくり返しても、山内蓮がうちに滞在するようにしか聞こえないけれど……。

「叶恵、口を閉じなさい」

　あまりにもマヌケな顔をしていたのか、絹江から呆れ気味に注意される。

「ちょっと待ってよ。今の話はどういうこと？　彼が？　うちに？　泊まる？」
「すみません。やっぱりご迷惑ですよね」
「迷惑以前に、とりあえず確認させてください。私の聞き間違いじゃなければ、山内さんがこの家にしばらくいるってことですか」
「そうよ。蓮くんね、せっかく3ヶ月もお休みが取れたのに、何も予定がなくて家で1人なんですって。だったらうちにいたらって提案したのよ。これも何かの縁だし」
「おばあちゃん……。おじいちゃんは、それでいいの？」
「いいも何も、わしは大歓迎だ。家族は多いほうが楽しいだろう。ん？　叶恵は蓮くんがいるのはいやなのか。昨夜は助けたのに、元気になったらハイさようなら、か」

　育ててくれた2人にそこまで言われて、誰が反対できるだろう。
　叶恵が諦めるしかないことは、火を見るよりも明らかだ。
　叶恵はため息を押し殺し、しぶしぶ首を横に振る。

「……山内さん。2人がこう言ってますので、うちでよければどうぞ好きなだけいてください。っていうか、どこに泊まってもらうのよ？」
「ああ。それなら、叶恵さんの部屋の向かいの和室をすでに片付けましたから」
「蓮くんが片付けてくれて、私たちも助かったわ。ありがとう」
「そんな、泊めてもらうんだから、それくらい当然だよ。これからしばらく俺のことは本当の孫だと思って、どんどんこきつかっていいから。そういうわけで叶恵さん、しばらくの間、お世話になりますね。至らないことがあったら、遠慮なく何でも言ってください。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ……」
「さて、じゃあ夕飯にするか」

　呆然とソファに座ったままの叶恵を気にも留めず、3人は和気藹々と食卓につく。
　誰か嘘だと言ってください。
　夢だよって目を覚まさせてください。
　なんならテレビのドッキリ企画だと言われたほうが、まだ信じられるかもしれない。

「叶恵、早くしなさい」

　絹江の声に我に返り、ふらふらと自分の席に座ると、いつもなら誰も座っていない正面の席、國吉の隣に、優しく微笑む蓮が座っていた。
　どうやら嘘でも夢でもドッキリでもないようだ。
　談笑しながら夕食をとる3人のそばで、叶恵は黙々と箸を動かし続ける。
　今はとにかく早く独りになりたかった。