夏がくれた奇跡
「ほら、撮れた……」


 カメラを下ろしてみれば、もうそこに彼女の姿はなく。


 無機質にカメラから現像された写真が出てくる音が響いた。


「…………っ」


 その写真の中にも彼女の姿はない。その代わりに、背景だけが映った写真の上にメッセージが書いてあった。


 ちょうどさくらがいるはずだった位置に。手書きの文字で──初めてさくらが俺を呼び出した手紙に書かれていたのと同じ字体で。


『やっぱり嘘。絶対忘れないで』と。


「……忘れるわけ、ねぇだろ」


 必死に堪えていた涙が溢れ出してくる。俺はそれを拭うこともせず、目を閉じたまま手を組んで空に祈りを捧げた。



 この川の向こうの、あまりにも遠すぎる場所へ引っ越して行ったさくらが。


 どうか、どうか幸せでありますように、と。
 








 ──八月十六日。

 俗にお盆と呼ばれる期間の最終日。


 それはとある夏の一日の奇跡だった。







fin
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