夏がくれた奇跡
 ふつうのカップルなら、一緒に撮った写真や恋人の写真の一枚や二枚はあるはず。


 なのに俺のスマホのフォルダには、さくらが写っている写真が一枚もないのだ。


 俺の質問に彼女は、頬を膨らませる。


「だって私、写真映えする顔じゃないもん」

「はあ? そういう問題? 写真がないせいで俺、お前の顔忘れそうだったんだけど」

「君なら忘れないって信じてるからさ」

 
 おどけて冗談のつもりで言ったが、思っていたよりも真剣な表情で返されて、返事につまる。


「…………」


 会話が途切れ、訪れる沈黙。ふと空を見上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。


 そう、俺たちが二年前の夏、初めて出会ったときと同じ空だ──。
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