夏がくれた奇跡
「……ねえ、さっき私になんで写真を撮られるのが嫌いか聞いたよね」


 彼女が少し焦ったように早口で話し始めた。俺はそれに黙って頷く。


「私は写真撮られるのが嫌いなわけじゃないよ。ただ、私の姿が写真として残ってたら、君は私のこと忘れずらくなると思ったから」

「……ど、うして」


 疑問しか出てこなかった。なぜ忘れなければいけないのか。


「私たちはこんなに離れてるのに好きでいるなんて辛いだけだよ。私のことは忘れて、新しい恋を見つけて。君は結構いい男なんだからさ?」

「……結構ってなんだよ」


 俺は笑って答える。言葉はそれしか出てこなかった。バカみたいなやり取りをしていないと、無性に叫び出してしまいそうで。


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