独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
1. 土曜日のビタートラップ
結子の緊張の時間が始まってから約二十分が経過した。着物で正座をするのは高校卒業まで通っていた茶道教室以来かなり久しぶりだが、今は和装の息苦しさや足の痺れも気にならない。
(ついに……響兄さまと……)
期待に胸が膨らむ。心臓の音がドキドキとうるさい。隣に座る両親にもその音が聞こえている気がする。
けれど緊張してしまうのも無理はない。これから結子がこの見合いの席で会うのは、幼いころからずっと憧れ続けてきた四つ年上の男性、入谷 響一。
幼い頃から勉強もスポーツも得意で、何をやっても非の打ち所がない。見目も麗しくいつも冷静沈着で、堂々とした態度には大人の落ち着きと優雅な風格が漂う。
現在の彼はイリヤホテル東京ルビーグレイスの総支配人を務めると同時に、イリヤホテルグループの取締役にも名を連ねる。
都内だけではなく全国にいくつものシティホテルを経営する『入谷家』の御曹司。その完璧な存在で結子の憧れの人が、今夜結子との結婚を望んで見合いの席を設けてくれたというのだ。
(どうしよう、私ヘンじゃないよね……?)
すでに何度も撫でた前髪にまたそわそわと触ってしまう。自分の着物姿に不安にならないはずがない。浮かれてしまっても仕方がない。期待に胸が躍ってしまうし、表情がだらしなく崩れてしまう。
けれどそのぐらい待ち望んでいた縁談だ。このお見合いの席を結子はもう何年も夢見ていたのだから、多少の挙動不審は許して欲しい。