独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
結子が今日イリヤホテル東京ルビーグレイスにいる理由は、このホテルのチャペルで小規模のリサイタルが行われることになったからだ。
普段は欧州を拠点に活動しているとある若いバイオリニストから『美しいステンドグラスを背景に演奏会をしたい』とルビーグレイスに依頼があった。
彼女は日本ではほぼ無名で人も集められないから、それなら音響設備や収容人数にこだわらず自分が気に入った空間で好きな曲を演奏したい、と思いついたらしい。
そして彼女の『気に入った空間』の演出に、結子のデザインするアートフラワーが選ばれた。バイオリニストの彼女はショッピングモールで行われていたイベントで結子がデザインした花を目にしたらしく、ぜひ結子と仕事がしたいと直々に依頼があったのだ。
縁とは不思議なもの。どこに仕事の機会が落ちているのかわからないものである。
「で、なんで奏もいるんだ? 今日は仕事じゃないのか?」
「うん、結子の付き添い。俺は休暇」
そしてそんな結子の仕事ぶりを、奏一はずっと見守ってくれていた。仕事が休みだから俺も行く、と結子をルビーグレイスまで送迎してくれた。そしてチャペルの飾りつけを終えた結子と合間の時間を過ごし、バイオリンの演奏も一緒に聞いて、こうして撤収作業が終わるのも待ってくれていたのだ。
暇ならこっちの仕事手伝ってくれ、やだよ俺だって休み久々なんだから、と言い合う二人を見て、結子は少しおかしくなってしまう。