独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
「結は昔から、奏にいじめられるのが好きだっただろ」
「!? は……い!?」
「からかわれたり泣かされたりしてもそれなりに楽しそうだったから、結はそういう趣味なのかと……」
「え……そうなの、結子?」
「いや、そんなわけないでしょ!? 何言ってるの!?」
「いじめたい奴といじめられたい奴の間に、俺が割り込む隙はないからな」
「ちょ……違いますからねっ」
響一はなにかとんでもない誤解をしているらしい。いじめられるのが好きだなんて、そんなわけがないのに。しかも困ったように視線を下げて俯く姿を見るに、冗談ではなく本当にそう思っているようだ。
さらに質が悪いのは、その発言を奏一が真に受けていることだ。にこにこしながら『そーなんだ』と呟くので『だから違う!』と必死に首を振る。
「あと奏も」
「……は? え、俺?」
「昔、泣かれたことあるんだ」
「ん!? 泣……!?」
突然自分に飛び火してきた時点で何か嫌な予感がしたらしい。奏一は兄の言葉を制止しようとするが、ニヤリと笑った響一が口を開く方が少しだけ早かった。
「『ゆいこちゃんはぼくのおよめさんだから、にーちゃんにはあげないー! びえーっ』って」
「ちょ、ちょ、ちょ……!? 俺そんな事言った!?」
「言ったぞ。奏が指の怪我してコンクールに出れなくて、俺が入賞したときだったか? 結が俺を褒めてくれたら、控室で大号泣された」
響一が真顔で説明するので、結子は思わず隣に立つ奏一の顔をじっと見つめてしまう。そして指先で唇を押さえ、ぽつりと呟いてしまう。
「何それかわいい」
「ちょ、忘れて、結子! ほんといますぐ忘れて!?」