独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 結子と結子の両親は、約束の時間の十五分前には指定された料亭の一室に到着していた。相手はすでに五分遅れている。だからもう二十分はここで待たされている。

 けれど忙しい人たちだから仕方がない――そう思ったところで、廊下の板を踏む複数の足音がかすか遠くから聞こえはじめた。

 その音がだんだん大きくなってきて、やがて部屋の前で揃って止まったことに気が付くと、結子の緊張と期待は最高潮に達した。

 口から心臓が飛び出そうなほどにドキドキする。背筋がぴんと伸びる。ススッと襖が開いた瞬間、咄嗟にさっと視線を下げる。

「やあ、佐山(さやま)君。遅れて悪かった」
「いえいえ、入谷様はお忙しい身ですから。本日はお時間を頂き恐縮です」

 結子の父である佐山 (とおる)はすぐにその場に立ち上がろうとした。だが部屋に入ってきたイリヤホテルグループの総取締役・入谷 晃一(こういち)が、父の動きを『そのままで』と声だけで制する。そんな二人の会話を聞きながら、結子は緊張に再度唾を飲み込んだ。

 そしていくつか言葉を交わした後、入谷家の面々が席に着く音と気配を察知する。そこで結子はようやく視線を上げることができた。

「え」

 ――固まる。
 ついでに変な声も出る。

 結子の斜め前に座り、結子と目が合うとすぐににこりと微笑んだのは、確かに結子が幼い頃から憧れ続けてきた人……と同じ顔。

 同じ髪型と同じ髪色と同じ目の色。凛々しい目元も、平均より少し高い鼻も、綺麗な色の唇も、逆三角形の輪郭も、何から何まで想像と同じ、だけれど。

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