独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
「え、じゃないだろ結子。ご挨拶しないか」
ぽかん、と口を開けたまま動かなくなった結子に、父が咳払いをしながら挨拶を促してくる。その声にはっと我に返った結子は、慌ててもう一度頭を下げた。
「あ……改めまして、佐山 結子でございます。本日はお忙しい中このような席を設けて頂き、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」
結子が当たり障りのない挨拶を述べると、晃一が嬉しそうに笑い出す。
「ははは、結子ちゃんも見違えるほど綺麗になったな。なぁ、奏一?」
「父さん、結子さんは元々綺麗だよ」
その声に応えたのは、結子の憧れる入谷 響一によく似た人物。けれど本人ではない。晃一が呼んだ名前は『奏一』
入谷 奏一。
結子の憧れの人の、双子の弟だ。
「着物も似合うね、結子さん?」
「……アリガトウゴザイマス」
その奏一ににこりと微笑まれ、つい口角がヒクッと引きつる。自分でも頬が痙攣しているんじゃないかと思ったが、目が合った奏一はにこにこと笑うだけだ。
(なんで……? どういうこと……?)
気持ちが一気に冷却する。否、冷静になるどころか萎んでしまう。
一卵性双生児なだけあって姿かたちこそ一緒だが、入谷 奏一と入谷 響一はまったく違う。外見は同じでも性格は似ても似つかない。その唯一異なる彼らの特徴が、結子にとっては一番の問題だ。