独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 奏一の言葉に、それもそうか、と思う。

 結子の勤務先は取引がないが、イリヤホテルはそのすべてにブライダル部門を含むし、結子の父が経営するブリリアントサヤマもブライダル関係の業種である。

 それぞれが直接的に繋がっていなくても、現場にいれば業界の情報はあちこちに飛び交っている。だから何かの折にお互いの仕事を見聞きする機会もあるだろう。

 そして奏一は、そんな結子の姿を密かに見ていたという。

「俺の中の結子のイメージは『兄さんに憧れてるだけで何もできない、温室育ちのお姫様』だった」

 ふと聞こえた台詞に、は? と不機嫌な声が出てしまう。

 優しい夫は傷心の妻を慰めてくれているとばかり思っていたのに、彼の唇から零れた言葉は存外に辛辣だった。

 しかもその内容は、結子がよく耳にする陰口となんら変わらない。老舗ドレスメーカーの社長令嬢として蝶よ花よと生きてきたと思われがちな結子は、彼の言うように『温室育ちのお嬢様』という印象を持たれることが多い。どちらかというと気が強い性格だからか、余計に『口先ばかりで何も出来ない』というイメージが先行しやすいのだと思われる。

 しかしそれを、他でもない奏一が口にするのはどうなのか。慰めてくれるつもりなのではないのか、と頬を膨らませてしまう。

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