独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
奏一の指に顎の先を持ち上げられる。そのままじっと見つめ合い、息がかかるほどの距離まで顔が近付くと、急に緊張感を覚えて身体がじわりと汗ばんでくる。
「結子、俺に慰められてくれる?」
「……?」
「もっと触ってもいい?」
「……うん」
奏一の声が深い甘さを含みながら少しずつ低くなっていく。その音に導かれるように頷くと、彼もほっと息を吐いた。
「大丈夫。ちょっとだけ気持ち良くなって、つらいこと忘れたら……明日からまた頑張れるよ」
奏一の言葉は、結子のひび割れた心にじんわりとぬくもりを与えるようだった。明日からまた頑張れる、と言われると、本当にその通りになる気がした。
だからお互いにまだご飯も食べていないしお風呂にも入っていないというのに、そのまま寝室に連れて行かれてベッドの上に横たえられても、否定の言葉も拒否の言葉も出て来なかった。
「忘れさせてあげる。痛いことも、しないから」
「……ん」
笑顔で約束する言葉に、ゆっくりと顎を引く。その反応をみてにこりと笑った奏一が、自分の首元からネクタイを抜き取って床へ放り投げる。
都会の夜は今日も明るい。カーテンが引かれていない部屋なら、照明が灯っていなくても窓からぼんやりと入り込む淡い光だけで十分にその姿を認識できる。
小さな光源に照らされた奏一の笑顔にドキリと心臓が高鳴る。けれど結子が自分の心拍数を認識する前に、二人の唇はゆっくりと重なり合っていた。