独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

「学校のテストとかいつも俺が一位で、兄さんが二位でさ。兄さんは朝から晩まで必死に勉強詰めなのに、大した頑張ってない俺がいつも勝っちゃうから。一回でいいから兄さんに勝たせてあげたくて、わざとに手を抜いたことがあるんだ」
「うわあ……最低」
「うん、ほんと最低だったと思う」

 奏一の暴露に、結子は思わず本音を漏らしてしまう。だがそんな呟きを、奏一は苦い表情で肯定した。

「兄さんは確かに一位になれた。でも俺、そのとき五番ぐらいまで順位が落ちちゃって……」
「……」

 え、それでも五位……? と思ったが、それはあえて飲み込んだ。この人はこういう人なのだ。

「未だかつてないほど怒られた。馬鹿にしてるのか、って怒鳴られて、しばらく口も聞いてくれなかった」

 それはそうだ。一生懸命に努力している響一に対して、奏一が手を抜くのは相手を馬鹿にする態度以外の何ものでもない。もちろん奏一の気持ちはわからなくもないが『勝たせてあげたい』という理由でわざとに負けるのは、相手の本気を見下すだけの最低なエゴイズムだ。

 けれど奏一はそれからしっかりと反省したのだろう。自分の愚かな行動を悔い改め、二度と同じことはしないと誓った。何事にも本気の兄に対して自分の善意を押し付け、上から目線で勝ちを譲る行為がいかに失礼で相手のプライドを傷付けることか、大人になった今はもう理解しているに違いない。

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