独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 結子の気を逸らすために、前日の激しい行為をわざわざ思い出させようとする。そんな奏一の力に負けて、いよいよ指先が彼の股の間に触れてしまうかと覚悟したところで、

 ピリリリッ、ピリリリッ

 とスマートフォンの呼び出し音が鳴った。その瞬間、二人の攻防は唐突に終わりを迎える。

「ん? 俺かな」

 奏一が手の力を抜いて結子の拘束を解いてくれたので、結子は密かに助かった、と息を吐いた。この人は本当に、朝からなんて恥ずかしいことをするのだろう。

 項垂れる結子に『ちょっと待ってて』と言い残し、ちゅ、と額にキスを落とす。恥ずかしいことにはまさかの続きがあった。結子はシーツに顔を埋めるしかない。 

「はい、入谷です」

 照れてしまう結子の隣で電話に出た奏一に、またため息が出る。

 最近、気を抜くとすぐに奏一のペースに巻き込まれてしまう。政略結婚を受け入れ、家のために父のためにと思いながらこの家に来たときとは、明らかに違う。嫌な顔をしないように、不安な気持ちを見せないようにと区役所に婚姻届けを提出したときとは、絶対的に異なる。

 なんだか絆されている気がする。結子をベッドに誘い、甘やかすように口付け、身体中を愛おしそうに撫で、優しい言葉を紡ぎ、熱の籠った声で名前を呼ばれる。

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