独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
それが情交のときだけの睦言で、気分が盛り上がって口にするただの戯れだと知っているのに、らしくもなくときめいてしまう。そして後になって、愛の証が本物じゃないことを少しだけ寂しく思ってしまう。
「ああ、そう。……ん? なに、?」
きっと職場のホテルからだろう。結子の名前を呼ぶ時とはまた違った声の低さで、スマートフォンの向こうの男性と何か会話をしている。
相手もまさか全裸で通話してるとは思わないだろうな……そろそろ自分たちも起きて朝食を摂らなければ。
「は……? なにそれ……?」
「?」
特に予定のない休日をどう過ごそうかと考える結子の隣で、奏一の声がどんどん低くなっていく。
『待ってて』と言われてキスされたので『しょうがないから待っててあげよう』とベッドに寝転がったまま視線を上げると、表情もだんだん暗くなっていることに気付く。
「いや、代替があるだろ。別に頼むとか……」
何かのトラブルだろうか。奏一はいつもニコニコと笑顔を浮かべている印象があるので、てっきり仕事も笑顔で乗り切るタイプだと思っていた。
けれど少し、不穏な空気だ。彼が職場の――おそらく部下のひとりに対して強い口調で話している姿は見たことがなかったので、何となくソワソワしてしまう。
そのままスマートフォンを耳に当てて険しい顔で頷く奏一をじっと見つめていた結子だったが、ついに彼が、
「はぁっ……!?」
と大きな声を出すと、流石に驚いてびくっと飛び跳ねてしまった。