独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 両方の父にそつなく受け答えをする奏一の顔を正面からジトッと睨む。兄の顔を立てる賢弟の言葉さえ憎らしく感じるが、それもどうにか押さえ込む。

 それ自体は偽りではないだろう。結子も彼が兄を慕う姿は見聞きしているので、その発言を否定するつもりはない。

「兄の結婚を待ってる間に、結子さんが他の方と結婚してしまうのではないかと冷や冷やしていました。もし結子さんが僕より若い男性とあっさり結婚してしまったら、僕は兄を恨んでいたかもしれませんが」

 真っ赤な嘘ばかり平然と並べ立てる奏一に、とうとう開いた口が塞がらなくなる。よくもまあ、いけしゃあしゃあと口からでまかせが紡げるものだ。

 幼少期に同じピアノのレッスンに通っていた頃も、父の仕事について行った先で会ったときも、同業者や著名人の式典や懇親パーティで遭遇したときも、奏一が結子を好いている気配なんて感じたことはない。

 今までそんな素振りを見せたことは一度もないくせに、急に結子に興味と関心があるように振る舞うのは一体どういうつもりなのか。

「まぁ」
「やあね、奏一ったら……」

 なのに熱烈な口説き文句を添えて真剣な求婚の言葉を並べれられれば、それまで黙って成り行きを見守っていた結子の母も即陥落だ。甘い笑顔でにこりと微笑まれ、結子よりも隣に座る母の方が照れている。

 おまけに彼の母親まで困ったように笑うのだから、結子にとってこの場はもはや四面楚歌だ。

(よく言うわよ……)

 奏一の白々しい態度に、結子はひとり苛立ってしまう。

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