独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
「事業所が、うちのホテルに他の人は出せないって」
「えっ……? な、なんで……?」
「……うちの責任者が、とんでもないことやらかしてたから」
「……とんでもないこと?」
「……」
着替えを終え、顔を洗って歯を磨く奏一の後ろにとことこと着いて行っては、どういう状況なのかと訊ねる。
奏一は準備をしながらも結子にポツポツと説明をしてくれていたが『とんでもないこと』と口にしたのを境に、それ以上は何も言わなくなってしまった。
否、言えなくなってしまった。
奏一の表情は、見ている結子が心配になってしまいそうなほど深刻に青ざめていた。どうやら当該の事務所に、もしくは取引がある別の事務所に連絡を取って間に合わせればいい、というほど簡単ではないらしい。
「あ、兄さん? ごめん、朝早くに。ちょっと相談があって……うん」
仕事用の時計とネクタイピンを身に着けながら、また別の場所に連絡を取る。次に奏一が電話をかけた相手は、彼の双子の兄でイリヤホテル東京ルビーグレイスの総支配人、入谷 響一だった。
「あ……そっか。イベント今日だもんね……いや、ごめんごめん。大丈夫、謝らなくていいよ。こっちのミスだからこっちでどうにかする。――うん、あとでまた連絡するから」