独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
そんな頼みの響一も、奏一の希望に応じることが出来ない状況にあるらしい。通話の時間はかなり短く、いくつかのやり取りをした奏一は、その電話をすぐに切ってしまった。そしてそのまま、さらに別の連絡先に発信する。
「おはようございます、エメラルドガーデンの入谷です。朝から申し訳ありません、実は相談があって――」
そうしていくつかの場所に連絡を取る奏一だったが、やがて心当たりのある連絡先も出尽くしてしまったらしい。
最後の通話を切った直後から玄関先で動かなくなってしまった奏一に『奏一さん、ごはんは……?』と問いかけたが、返答は覇気のない『食べてる時間ないから、もう出る』だけだった。
愛車のキーを手にする奏一を玄関先で見送るつもりの結子だったが、彼がドアノブに手を掛けた直前、意を決してそのスーツの裾をぐっと掴んだ。
結子の制止に気付いて足を止めた奏一が、くるりと振り返り何度が瞬きをする。
「結子……?」
「奏一さん、私に何か出来ることない?」
「……え?」
強い意思を含めて訊ねた言葉に、奏一が驚きから目をまん丸にする。
もちろん結子も彼の驚きを理解していた。けれどそれでも止めたくなかった。奏一の抱えるトラブルが結子の職業と同じフローリストの不在で起きているならば、結子にどうにかできる可能性があることを伝えたかった。
「フローリストが来なくても、お花はちゃんとホテルに届くんでしょ? デザインデータとかプラン表もあるんだよね?」
「え……ああ、うん……確認したら花はホテルに届くとは言ってたし、データも共有してあると思うけど。でも――」
「……でもじゃない!」