独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
でも――そう、彼の言い分はもちろんちゃんとわかっている。
結子はフリーランスのフローリストやデザイナーではない。フラワーショップ『オーロラベール』に勤務し、所属先と雇用契約を結んでいる身だ。
だから取引のない相手から仕事の機会を得たとしても、実際に業務を行うときは必ず勤務先の許可を得なければならない。結子の独断でイリヤホテル東京エメラルドガーデンに……奏一に手を貸すことは出来ない。
それはわかっている、けれど。
「結婚する二人にとって、結婚式やパーティってすごい大事なんだよ? 一生に一度しかない大事なイベントなの。それなのに予定してたパーティがちゃんと出来ないなんて、そんなの寂しいよ」
「結子……」
「私、これから幸せになる二人に、悲しい思いをして欲しくないの」
これは奏一のためであって、奏一のためだけではない。
結子は名前も知らないし、会ったことも聞いたこともない。自分のクライアントでも、職場の他の人のクライアントでもない。完全なる赤の他人だ。
それでも、人生でたった一度きりの晴れ舞台を悲しい顔で迎えて欲しくなかった。新たな家庭を築く二人の門出となる第一歩を、花の一つも添えられていない寂しいパーティにはしたくなかった。自分がその立場だったらと思うと、居ても立っても居られなかった。