独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
「ちょっと待ってて。今うちの所長に確認するから」
それに何も、結子は本当に完全なる独断で奏一に協力しようとしている訳ではない。もちろんちゃんと勤務先には許可を取るし、ダメだと言われたら諦める。そのときは別の方法を考えるまでだ。
奏一の抱えるトラブルの内容はわからない。だがこのまま放置すれば悲しむ人がいることはわかる。それを回避できるなら、結子に出来る協力は惜しまないつもりだ。
「奏一さん、通話できる?」
「うん、もちろん」
オーロラベールに電話をして事情を話すと、いつも朗らかで大仏のように優しい上司は、ごく軽い口調で『いいよぉ』と言ってくれた。
ただしそれは、結子が急遽単独で仕事をする許可をくれるというだけで、イリヤホテル東京エメラルドガーデンとの契約は、また別の話である。上司が奏一と『仕事の話をしたい』と言うので奏一に電話を代わる。そして依頼に関わる確認をしている間に、結子は自分の身支度を進める。
おはようございます。妻がお世話になっております、夫の奏一です。この度は突然のことで申し訳ございません――そんな挨拶を遠くに聞きながら着替えを済ませ、顔を洗って歯を磨き、背中まである髪を一本に結んでまとめあげる。
もちろん結子にも朝食を食べる余裕はない。最低限の準備をしたら、そのまますぐに出発だ。