独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

「ありがとうございます。――はい、では後ほど必要書類と見積りをお願いします。……はい、ありがとうございます」

 結子が準備を終えて玄関へ戻ってくると、丁度奏一も結子の上司と話をつけ終えたところだった。彼が長い安堵のため息を吐くところを見るに、どうやら結子や奏一が望む通りにしてもいいと話がまとまったらしい。

「ごめん、結子。巻き込んで……」
「話はあと! 急ぐんでしょ?」

 意気消沈気味に項垂れる奏一だが、安心するのも悔やむのもまだ早い。奏一の元へ職場の人から最初に連絡が来てからもう三十分は経過している。詳細はまだ不明だが、時間はそう長く用意されていないはずだ。

 奏一の肩をぽんぽんと叩き、一緒に玄関を出る。

「私、車の中でメイクするからね。眉毛ズレてても笑わないでよ?」
「ごめん、それは笑うかもしれない」

 随分と気落ちしているように見えていたが、どうやら結子の冗談に笑う余裕はあるようだ。

 ならば大丈夫。これから向かうのは結子のフィールドではなく、奏一のフィールドだ。彼には結子を導くように、もっと堂々としていてもらわなければならない。

 だから無理にでも笑って、と目線で合図を送ると、奏一もようやく顔をあげて力強く頷いてくれた。

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