独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
三十歳になり少しは成長したのかと思ったが、何も変わっていない。結子をからかう態度は以前と何も変わらないし、豪胆な晃一や聡明な響一と違って笑顔だけですべてを乗り切ろうとする。
自分の顔立ちが整っていることをちゃんと理解していて、それさえ利用しようとしていることが手に取るようにわかる。人の想いや努力を、涼しい笑顔で易々と超えていく。
だから結子は、彼が嫌いなのだ。
「じゃあ、後は若い二人に任せることにしようか」
どこかのドラマで見聞きしたような定型文を口にして、晃一がゆっくりと立ち上がる。その動きに追従するように、彼の妻と結子の両親も座布団から腰を上げる。
「佐山君、この間ここのラウンジをリニューアルしたんだ。メニューも一新して良いウイスキーもいくつか仕入れたから、どうかね一杯」
「もちろんです。ぜひご一緒させて下さい」
(お~と~う~さ~ん~……!!)
晃一に訊ねられた亨は、彼の希望に添うであろう満面の笑みを浮かべた。どうやら父親二人は今回の見合いに世話役がいないのをいいことに、ちゃっかり晩酌を始めるようだ。
なんなら結子もその流れについていきたかったが、そうもいかないだろう。なにせ今日のこの席は結子と奏一のために用意されたもので、結子は今からここに取り残される『若い二人』の当事者だ。
楽しそうに談笑しながら和室の敷居を跨ぐ四人を恨めしい気持ちで見送る。一気に人数が半分以下に減ってしんと静かになったところで、奏一がふっと微笑んだ。
「二人きりになっちゃったね、結子さん?」
「……ハァ」
――最悪だ。