独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

「幻滅した?」
「……え?」

 ぽつり、と呟いた言葉を、結子は上手く聞き取れなかった。だから結子は、首を傾げて『何?』と聞き返した。

 だが顔を上げた奏一の表情は美しいが覇気や生気のない、精巧な蝋人形のように冷え切っていた。

「結子、俺を嫌いになったんじゃないかって」
「……は? え、待って、なんでそうなるの?」

 奏一が零した言葉に、結子はむっと反論する。

「何言ってるの? 仕事の失敗と私の気持ちは別の話だもの、何も関係ないじゃない」

 そもそも、今回のことは奏一の失敗とすら呼べないものだ。

 管理不足と言われればそうかもしれないが、明らかに人としての道を外したことをしていたのは上野という責任者の方だ。

 もちろん彼には相応の処罰を与えるべきだし、悲しい思いをした取引先の女性が法的措置を取ると言うのならばそれも当然であると言える。

 だがそれは奏一の責任ではない。部下とはいえ、そこまで面倒を見てやる必要はないだろう。

 なのにどうしてそこまで落ち込むのか。どうしてそんなに悲しそうな顔をするのか。どうして結子が奏一を嫌うという話に飛躍するのか。――意味がわからない。

「じゃあ奏一さんは、私が仕事で失敗したら幻滅して嫌いになるの?」
「ならない! それは絶対にならない!」

 結子の反論に、奏一がはっとして顔を上げる。そして結子の指摘のようなことには絶対にならないと必死に訴える。

< 80 / 108 >

この作品をシェア

pagetop