独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
結子には何もさせてくれない。慰める機会も、仕事を褒める機会も、甘えさせてあげる機会も与えてくれない。
全部一人で抱え込もうとする。結子を自分のものだと言うくせに、結子が好きだというくせに。肝心の妻として一番大事な役割を与えてくれない。
「結子……」
結子の後を追いかけて、奏一がすぐに寝室へやってくる。そしてベッドに潜り込んだ結子の傍に腰を下ろし、結子の頬に触れようとする。
「結子……? ごめんね……?」
「……」
奏一はそうやって謝ってくれるけれど、彼はきっと、何に対して謝っているのか自分でもよくわかっていないのだろう。
でもそれじゃ駄目だ。とりあえず謝って済ませばいいだなんて、そんな選択は誰も幸せにならない。
だから返事はしてやらない。結子が何を思って何に悲しんでいるのか、ちゃんと理解してくれなければ意味がない。
ぐずぐずと涙をすする音から奏一は結子がまだ起きている事にも、それを気付かれているとわかっていてあえて無視していることも、ちゃんと伝わっているだろう。
それでも今はまだ許さない。
奏一がちゃんと自分で理解するまで……結子が『失敗したから怒っている』のではなく『辛い気持ちを共有させてくれないことを悲しんでいる』と理解するまで、結子はほどけた指を自分から握り直すつもりはない。
一方的な遠慮を押し付ける関係なら――政略結婚で結ばれただけの脆い二人は、いつまでたっても本物の夫婦にはなれないのだから。