独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
「まだ、渡してなかったから」
「え……」
「結子さん。俺と結婚して下さい」
奏一が少し緊張した声で呟く。表情も少し硬い。いつものような笑顔ではなく、昔のように意地悪をする顔でもない。
真剣な顔と真剣な声で奏一が差し出したのは、エンジ色の小さな箱だった。その中身を確認する前に、結子は中に入っているものの存在を理解してしまう。
「……もう、してるよ」
奏一の唐突で思いがけない行動を知った結子は、あまりに驚いたせいでそんな可愛げのない言葉しか発することが出来なかった。他にもっと言い方があるはずなのに、それ以上の言葉を思いつかなかった。
苦笑いする奏一は、きっと結子の反応を予想していたのだろう。小さな箱をテーブルの上に残したまま、奏一がそっと姿勢を正す。そして結子の目を見据えて意を決したように口を開く。
「結子に、ちゃんと謝らなきゃいけないことがあって」
「……この前のこと?」
「うん」
結子が問いかけると、奏一が短く頷いた。だから結子も、席についてもレストランの係の者が誰一人としてこの席に近付いてこない理由を理解する。
きっと奏一は、自分の言葉で結子に何かを伝えたくて、その根回しをしているのだろう。
彼の本気の知った結子はおそるおそる、けれど同じように真剣に奏一へ向き直る。