独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
「俺さ、今まで失敗したことがない人生を送ってきたんだ」
「え……あ、うん」
奏一の言葉に目が点になる。そこだけ聞くとかなり高慢で突拍子もない言葉で、つい驚いてしまう。
一瞬『突然なに?』と思ってしまうが、彼の言葉そのものには頷ける。実際、奏一の主張は本当にその通りなのだ。
「だからこの前の失敗が、たぶん人生で初めての失敗だった」
「……」
入谷 奏一という人は敗北を知らない人生を歩んできた。真面目にやろうが適当にやろうが、意図的に手を抜かない限りは必ず結果が伴うし、幼少期から努力をしなくても称賛を浴びて生きてきた。
彼の兄である響一は生まれ持った才能を磨き上げて成長していると思えるが、奏一は生まれ持った才能だけで生きている人だと思えてしまう。勉強もスポーツも習い事も、おそらく人間関係も負け知らずな人生を送ってきた。
けれど彼は先日、人生で初めての失敗をした。ありえない状況を作ったのは奏一自身ではないが、その責任を負わなければならないという意味では彼にとっての『失敗』と言えよう。
「失敗するって、すごく怖いことだと思った」
「……普通はみんな、奏一さんの年齢になるまでに色んな失敗を経験するのよ。勉強とか、仕事とか、恋愛とか、お金のこととか」
奏一の呟きは何かに恐れる幼い子どものように見えた。未知の失敗体験に怯え、次の失態を恐れ、前に踏み出すことが出来なくなった弱い姿に思えた。
これまで失敗のない人生を送ってきたのだから仕方がない。だからあんなに落ち込んで、苦しんで、そのまま壊れてしまいそうなほどに沈み込んでしまった。