独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 普通の人はこうなったとしても自分で立ち直れるだろう。けれど三十歳という年齢まで失敗などしたこともなかった奏一は、他人に不快な思いをさせ、迷惑を掛け、相手に嫌われるという状況に遭遇したことがなかった。

 失敗を知らなかった。
 だから失敗しない方法も知らなかった。

「だから『努力』するのよ。失敗する事自体は別に悪いことじゃないけど、場合によっては人に迷惑かけちゃうでしょ? みんなそれが嫌だから、一生懸命努力して『備える』の」

 奏一は例外中の例外だ。失敗しない人間などいない。人は自分の能力を見誤ったり、思いもよらない状況や不運に巻き込まれたり、どうしてもそりが合わない人と衝突することで『失敗』を経験する。

 そして成長の過程で挑戦と成功と失敗を繰り返しながら、自分の中での最適解を見つけていく。経験し、情報を蓄積し、学習し、分析して、修正していく。トライとエラーを繰り返しながら失敗に備えるのが、人間という生き物なのだ。

「でも奏一さんはほんとのほんとに一度も失敗しないまま、負け知らずで生きてきたのね。それはそれですごいと思うけど」
「そうでもないよ?」

 結子の感嘆を聞いた奏一が、不思議そうに首を傾げる。そしてその仕草をみた結子も、同じように首を傾げる。『そうでもない』の意味がわからなくて。

「失敗ではないけど、叶わない恋ならしてた」
「え……そうなの?」
「うん」

 恋。という単語が突然出てきて、一瞬言葉に詰まってしまう。胸の奥がぎゅう、と締め付けられる。

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