独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる

 今の奏一の隣にいるのは結子だ。結子は結婚して、彼の妻になった。

 だからこの関係は簡単には脅かされない。奏一が過去の恋を思い出しても、今の彼のそばにいるのは自分なのだ。

 それはもちろんわかっているのに、奏一の恋愛話など聞いたことがなかったので、急に怯んでしまう。なにか良くない想像をしてしまう。

「兄さんのことが好きな結子に、ずっと片想いしてた」

 このまま奏一の口から、聞きたくもない初恋のエピソードを聞かされるのかもしれない。と覚悟していた結子は、そこに自分の名前が出てきた事に間抜けな声を出してしまう。ぽかんと口を開けてしまう。

「……ん? ……は? え、私?」
「そう」

 そんな結子の顔を見て、奏一が苦笑する。そして、気付いてなかったの? と困ったように笑う。

「結子との結婚は、最初から政略結婚なんかじゃない。形はそうかもしれないけど、俺は別に入谷や佐山の利益のために結婚したいって言ったわけじゃない。ちゃんと親の許可ももらって、正式な形で結子を手に入れるにはこれが一番手っ取り早いから――そういうことにしただけ」

 饒舌に語る奏一の言葉が見合いの夜の言葉と重なる。彼は『頭の固い人を納得させるにはお見合いは合理的』『その後の準備も手続きもスムーズだし、理由付けもしやすい』と語っていた。

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