独占欲強めな御曹司は、溢れだす溺愛で政略妻のすべてを落としてみせる
11. 本物の愛になる前に
「最近、俺ほんとにだめで」
帰宅して入浴を済ませた二人は、ベッドに入ると久しぶりに向かい合って見つめ合った。ここ最近、結子はずっと奏一に背を向けて眠っていたので、ベッドの中で左を向くのもかなり久しぶり。奏一の指が愛おしそうに右の頬を撫でるのも久しぶりだ。
そしてその指が結子の頬を包み込む。温かい体温が溶け合うと、肌同士の境界が曖昧になっていく気がする。
「結子が口きいてくれなくなってから、運気が落ちたんじゃなかと思うぐらいに失敗続きで」
「……うん?」
「やっぱり勝利の女神様のご機嫌を損ねるのは良くないね」
奏一が苦笑しながらそんなことを呟く。その言葉を聞いた結子は、少し首を傾げてしまう。
奏一は三十歳の男性の割には、運勢がいいとか、運気が落ちたとか、ジンクスがどうとか、意外と乙女思考なところがあるように思う。結子も占いや心理ゲームの類は好きだが、別にそれを日々の指針にすることはないのでちょっとだけ女々しいと思ってしまう。
「結子がいなくなったら、俺すごい不幸になって死ぬかもしれないな」
「ええ……? ……それもう、勝利の女神じゃなくて座敷童じゃない……?」
奏一が思い詰めたように不穏なことを言うので、ついつい驚きの声を発してしまう。死ぬ、などという不吉で仄暗い言葉を払拭しようと冗談で返すと、奏一が小さく笑ってくれた。